ケース面接とは?
ケース面接は、面接官が受験者に対してある問題を提示しその解決策の呈示を求めるという、口頭諮問形式で実施される面接のことです。
かつてはマッキンゼーやボストンコンサルティンググループなどのピュア戦略と呼ばれるコンサルティングファームで実施されることで有名でした。
しかし、現在では総合系コンサルティングファームやITコンサルティングファームでも実施されるようになっています。
よって、コンサル未経験者がコンサルへの転職を考える場合、ケース面接の対策は必須です。
なお、最近はコンサル経験者に対してもケースが出題されることがままありますので、現職コンサルの方も念のため準備をしておくと良いでしょう。
なぜ、ケースインタビューが実施されるのか?
対策を考える前に、ケース面接の目的を考えて見ましょう。
なぜ、コンサルティングファームは、採用においてケース面接を実施するのでしょうか?
それは一言で言えば、コンサルタントが務まりそうかを判断するため、です。
受験者が「クライアントのディスカッションパートナーとして本当に相応しいかどうか」を見極めること、それががケース面接の目的です。
コンサルティングファームに依頼するクライアント企業は、各業界のTOP10に含まれるような企業ばかりです。
特に大手ファームに依頼する企業は少なくとも売上1000億円以上の規模であり、1兆円以上ということも珍しくありません。
こうしたクライアントのCXOや役員は、大変影響力の大きい、難しい意思決定を下す必要があります。
その判断一つ一つが、会社の業績を大きく左右し、場合によっては従業員とその家族を路頭に迷わせることになりかねません。
関係会社への波及効果を考えれば、何万人・何十万人という人間に影響を与えてしまう判断になります。
それゆえ、CXO/役員は非常に高度な判断を迫られ、常日頃から大きなストレスに晒されています。
そういった人達が、独力では解決しきれない経営課題を相談するパートナーが、コンサルタントという職業です。
当然、コンサルタントには、上記のような問題について、一流企業の役員と対等にディスカッション出来る程度の、高水準な思考力やコミュニケーション力が求められます。
それらの力の有無を、面接の場で判断している、という訳です。
この「なぜケース面接を実施するのか?」という視点は、具体的な対策を建てる上でも極めて重要になりますので、是非覚えておいてください。
ケースインタビューの種類
ケース面接には、実に様々なパターンが存在しますが、面接で出題される問題はかなり絞られています(理由については後述)
具体的には、大きく二つに分けることが出来ます。
【フェルミ推定】
フェルミ推定は、実際に調査することが難しい数量などを最低限の情報や知識で論理的に概算する手法です。
例えば、
「今日本で宙に浮いているゴルフボールの数はいくつでしょうか?」
「宅配ピザの市場規模はいくらでしょうか?」
「東京オリンピックの経済効果はいくらでしょうか?」
などの問いに対して、数値の概算を求められます。
どのような式で計算すれば導き出せるか?その因数分解をどのように行うか?それぞれのパラメータの数値をどのように推定するか?などの点に頭を使います。
たとえば、「売上であれば顧客数×単価で割り出せる」「店舗型ビジネスであれば顧客数は席数×回転数×稼働率で割り出せる」「この問題で想定されている店舗は都心部の繁盛店だから稼働率は高めに設定する」、、、などと考えていくことになります。
フェルミ推定では、主に以下の能力が評価されます。
・仮説を立てて考察する能力
・問題全体を俯瞰し、解決すべき課題を特定する能力
・未経験の難題に対して意欲的に取り組む好奇心
・ディスカッションを通じて回答を洗練させる能力
・短時間で計算を実行する能力
要するに、コンサルタントとして必要とされる仮説構築や考察力などのスキルが評価されている訳ですね。
また、回答を修正する能力も重視されています。
初めに算出した数値に難色を示されディスカッションを通じて大幅に修正されることもありますが、修正の結果、より精確な回答に近づいていけるのであれば、大きな評価対象となります。
実務では、一撃で正確な答えを出す能力よりも、トライアンドエラーを繰り返しつつ建設的な議論を通じてより良い答えに近づいていける能力の方が重要だからです。
合格の決定打となることもあります。
なお、フェルミ推定に関してよくある誤解は、「正確な数値を算出できるかが重要である」という思い込みです。
確かに正確な数値を出すことが望ましくはありますが、仮に数字がピタリとあっていても、当てずっぽうな論拠で数値を示していたのでは0点です。
なぜその結論に至ったのか?のプロセスに合理性があることの方が圧倒的に重要です。
答えが大きく違っていても、論理的な思考に基づいてプロセスを進めているのであれば、合格点はつきます。
【ビジネスケース】
ビジネスケースは、実在するもしくは架空の企業の経営課題に対して提言を求めるというものです。
例えば、
「日本都内で売上ベースで業界2位のタクシー会社を1位にするにはどうしたらよいか?」
「とある外資系掃除機メーカーの日本進出戦略を考えよ」、
「政府から、訪日外国人数を3年で1.5倍にしたいという依頼があったが、どのような提案をするか?」
などの課題に対して、コンサルタントになったつもりで、その組織に対する提言を行う事を要求されます。
ビジネスケースでは、論点をMECE(相互排他的かつ完全な共通集合)に整理し、仮説の構築や課題の特定を行っていきます。
また、フェルミ推定と組み合わせて出題されることも多いため、両方の対策を行っておくことが重要です。
ビジネスケースで陥りがちな罠
①知識に固執してしまう
業界の専門知識が求められる場合、自分が知っている情報に頼りたくなるかもしれません。
しかし、ビジネスケースでは単に知識を披露することよりも、課題の特定や施策の構築、暗記では対応出来ないような疑問に対し、回答をひねり出す力が求められます。
時には、世界で誰も知らない事柄について推測を求められることもあります。
答えの無い問題、誰も考えたことの無い課題について、なんとか答えにアプローチする力の有無を試しているのです。
にも可からわず、暗記で対応されると、面接官としては低評価を付けざるを得ません。
知識に囚われずに自分なりに必死で考え、仮説を立て、総合的な議論を進めることが重要です。
②アイデアだけに焦点を当ててしまう
企業が抱える問題を整理せずに、ただアイデアを提示することは良くありません。
特に売上向上に関する問題では、最初に「広告を打つ」という施策に飛びつきがちです。
ただし、アイデアを提示する前に問題を整理することが重要です。
ボトルネックを明確にし、それに対する効果的な施策を考える必要があります。
③競合への配慮を見落としてしまう
例えば、「売上ベースで業界2位のタクシー会社を1位にするにはどうしたらよいか?」という問題では、競合他社の分析なしで施策を考えることは困難でしょう。
しかし、実際のケース面接の現場では、対象となっている企業のことばかり考え、この点を見落としがち。
競合他社の分析はビジネスケースにおいて不可欠な要素ですので、注意が必要です。
出題パターン
ケース面接の対策本を読むとさまざまな出題パターンが紹介されています。
しかし、実際の採用面接では、出題パターンはかなり限られています。
例えば、「九十九海岸の砂粒の数を推定せよ」という問題。
それ自体は大変興味深いでしょうけど、実際のコンサルティングファームのケース面接ではほとんど出題されません。
その理由は、面接はあくまで「コンサルタント職の採用試験」だからです。
つまりコンサルタント業務に関係の無い能力については、試す意味が無いのです。
ビジネス実務で砂粒の数を計算する場面など、考えにくいですよね。
また、採用のタイミングで重要なことはコンサルタントとしての素質の有無であり、専門知識ではありません。
よって、専門知識が無ければ回答できないような出題はそもそも適切では無い、と言えます。
加えて、面接時間が1時間と限られている以上、あまり複雑な問題は出せないという事情もあります。
上記より、中途採用面接におけるケースは、出題傾向がかなり限られています。
一般的には、いわゆるビジネスケースで、BtoC領域、身近な商品やサービスで、細かい知識がなくともある程度定量的情報の推測が可能な題材が選ばれます。
出題の形式としては、特に以下の3つのパターンが多いでしょう。
・規模推定+施策(大規模)パターン
→(市場規模を求めさせて、そこからとある企業の売上向上施策などを回答させる問題)
・規模推定+施策(小規模)パターン
→(ある一店舗の売上など、比較的ミクロな単位での問題)
・CXO意思決定パターン
→(組織のトップになった場合の意思決定や戦略を想定させる問題)
以下、これら3つのパターンについて少し詳しく見てみます。
■規模推定+施策(大規模)パターン
このパターンの場合、一般的には、フェルミ推定を用いた市場規模の見積もりと、ビジネスケースに基づいた売上向上施策の検討が求められます。
例題:
ドラッグストアの市場規模を推定し、A社の売上を3年で1.5倍にする施策を考案せよ。
タクシーの市場規模を推定し、B社の売上を3年で1.5倍にする施策を考案せよ。
自転車の市場規模を推定し、C社の売上を3年で1.5倍にする施策を考案せよ。
時折、問題文では規模推定について触れられて居ないが、実際に解こうとするとフェルミ推定的な因数分解が必要になることがあります。
規模に影響を及ぼす要素を洗い出す際に、売上を導き出すための計算式をたて、因数分解で細かく分解し、それぞれのパラメータの数値を推定、実際の売上額との差を検討することで、ポイントになる要素を特定する・・・などという考え方です。
なお、たとえば「趣味は?」「登山です」「じゃぁ日本の登山ビジネスの市場規模を推定して」など、自身の趣味に関連した題材が選ばれることもあります。
普段から様々なものごとについてフェルミ推定してみる癖を付けると良い訓練になるでしょう。
■規模推定+施策(小規模)パターン
基本的には上記と同じですが、店舗の売上など、比較的小規模な単位に関するケース面接です。
やはり、フェルミ推定のみを用いた問題もありますが、売上向上施策なども検討する場合もあります。
「新幹線(のぞみ)の1日のコーヒーの売上を推定せよ。」
「あなたの家の近くのスターバックスの1日の売上を推定せよ。」
「赤字が出ている美容室を黒字にするためには、どのような施策が必要か検討せよ。」
こういった小規模組織を対象とした問題では、売上のみならず費用を考慮した利益向上施策を検討することもありますので、売上向上施策だけでなく、コスト削減についても思いを巡らせるようにしておくと良いです。
■CXO意思決定パターン
ある企業のトップに立ったつもりで、いわゆるトップアジェンダについて考えさせる問題です。
CXOなどの立場を想定し、3年計画の立案やM&A計画の立案、海外進出計画、場合によっては政府への提案などを考えさせられます。
例題:
「日経新聞社の社長になったつもりで、10年後の戦略を考案せよ。」
「A社の社長として、B社の買収を検討しているが、有効な策かどうか考えよ。」
「訪日外国人数を3年で1.5倍にするための提案を政府に行う場合、どのような提案をするか考えよ。」
こうした問題では、フェルミ推定はあまり使いません。
市場環境や競合分析の中で決定に影響を与える要素を洗い出し、それらを総合考慮した上で是非を決する、といった解法パターンが中心となります。
なお、実際の受験者から話を聞くと、出題頻度はあまり高く無いようです。
おそらくは、1時間では到底収まり切らなくなってしまいますし、面接官の方にも相当な準備が必要とされるからでしょう。
(実際、毎回違う問題を出すのは大変なので、得意な問題を何度も何度も使い回している、と言う面接官は多いです。)
ただし、「今在籍している企業にコンサルとして接するとしたら、どんな提案をしますか」という問題だけは頻出です。
大変多くの企業で出題されています。
常日頃から、今いる会社の問題点やその改善策を考えるようにしてくださいね。
■ケース面接の具体的な対策方法
1.書籍を読む
どんな勉強もまずはインプットから。
ゼロから始めるのであれば、以下などを読んでみると良いでしょう。
•『現役東大生が書いた 地頭を鍛えるフェルミ推定ノート――「6パターン・5ステップ」でどんな難問もスラスラ解ける!』(著者: 東大ケーススタディ研究会)
•『東大生が書いた 問題を解く力を鍛えるケース問題ノート―50の厳選フレームワークで、どんな難問もスッキリ「地図化」!』(著者: 東大ケーススタディ研究会)
•20●●年度版みんなが欲しかった! 中小企業診断士合格へのはじめの一歩
※中小企業診断士のカバー範囲は経営コンサルの業務領域と近く、業務内容を横断的に理解する上で有益です。
・「過去問で鍛える地頭力 外資系コンサルの面接試験問題」
・「戦略コンサルティング・ファームの面接攻略法―――マッキンゼーの元面接官が教える秘密のノウハウ」
2.問題を解く
上記の書籍を一読した後は、回答を見ずに問題を解いてみてください。
多くの問題を解くよりも、まずは一つの問題を何度も反復して解くことをおすすめします。
毎回違うアプローチを考えて見るとより効果的です。
多角的視点を養うためです。
数値の相違に囚われることなく、回答方法やパターンを学ぶことを主目的としてください。
出来れば、友人や転職エージェントとディスカッションを行いながら行うとベターです。
一部の受験者や、大学生は、ケース対策のゼミを開いていることもあります。
3.模擬面接を行う
実際の面接でケースインタビューに合格するためには、上記のトレーニングを積んだ上で、アウトプットする訓練を行うことが必要です。
ケース面接には、口頭のみのタイプとホワイトボードなどを使ったプレゼンタイプの2種類があります。
両方に対応できるように準備しておく必要がありますので、両方のパターンに対する対策を行いましょう。
やはり友人や転職エージェントに壁打ち役をしてもらうのがお薦めです。
4.様々な問題を解く
模擬面接と並行して、さまざまなケース問題に取り組んでみてください。
インターネット上や書籍に掲載されている問題など、ジャンルは問いません。
重要なのは、回答の幅を広げることと、考えてアウトプットする訓練をすることです。
回答を丸暗記するのではなく、できるだけ多くの問題に触れてみましょう。
5.情報収集を続ける
ネット上には様々なケース対策の素材が転がっています。
たとえば以下は戦略ファームのA.T.カーニーのページで、ケース対策のTipsが詳細に記載されています。
こういった情報収集を続けることも、大切な対策です。
当日現場で注意すべき点
以下は、ケース面接を受験する当日、現場で気をつけるべきポイントを解説します。
同じケース問題であっても、ペーパーで解くのと口頭で解くのとでは大きな違いがあります。
また前述した通り、ケース面接はコンサルタントとして相応しいかを総合的に判断する場であるため、回答そのもの以外にも、注意を払うべき点が存在します。
1.時間管理
2.ロジカルシンキング
3.ビジネスセンス
4.コミュニケーション
5.戦略
各ポイントの詳細
1.時間管理
•与えられた時間内でどの程度の内容を示唆できるかを判断できるか
•解答を時間内に完了できるほど練習できているか
2.ロジカルシンキング
•問題をMECE(漏れなくダブリ無く、相互排他・完全包括)に把握できているか。見落としが無いか。
•適切に要素を因数分解できているか(特にフェルミ推定系の問題)
•適切なフレームワークを理解し、選択・適用できているか
•仮説に妥当性・納得感があるか
3.ビジネスセンス
•数値の感覚があるか(例: 市場規模や相場を大きく逸脱した数字になっていないか)
•最新のビジネストピックについて十分に学習しているか(例: CASEやeVTOLについての知識)
4.コミュニケーション
•ビジネス談義・ビジネスディスカッションのパートナーとして適切な立ち居振る舞い・雰囲気をもっているか
•適切な質問や前提確認、理解の確認ができているか
•的を射た答えを端的に返せているか
•相手と会話のテンポを合わせられるか、相手の理解度を確かめながらの説明が出来るか
•図や資料の使い方は適切か、officeツールの使い方などで手間取らないか
5.戦略
•戦略が実際のマネジメント層から考えて妥当と言いうる内容か
•売上数兆クラスの社長に提案できる内容か
•市場動向や競合、時間軸の視点が考慮されているか
1から3のポイントは、問題を解く量をこなすことで身につきますし、対策次第で比較的短期間で克服できます。
常に自走して学習する習慣を持っている人は、一人でも対応しやすいでしょう。
一方、4と5は一人で対策するのが難しいポイントです。
特に立ち居振る舞いなどは自分自身でチェックすることは非常に難しく、
友人や同僚、エージェントなどの壁打ち相手を活用することが重要です。
ディスカッションを楽しもう
ここまで色々と解説してきましたが、実際に面接を通過する人には「ディスカッションを楽しめる人」が多い傾向にあります。
面接であり、試験であるため、力を試される側面があることは間違いありません。
しかし、実際の試験では、面接官との議論が白熱した結果、ぼんやりとしていた課題をクリアにできたり、建設的な答えを導き出せたりして、楽しく有意義な時間だったと感じることが有ります。
こういうときは、選考を合格していることが多いです、試験印象が無いにも関わらず。
コンサルタントとは、経営課題に関するディスカッションパートナーです。
クライアントとしても、出来るなら、ディスカッションを楽しめる相手をパートナーとして選びたいもの。
そのような人材になり得る素質は、面接における大きな評価ポイントなのです。
実際、合格した多くの人々が「楽しかった」とコメントしています。
まとめ
以上、ケース面接の対策ポイントについて解説してきました。
なお、対策方法を知ることは非常に重要ですが、それよりも重要なのは、実践してみることです。
ケース面接は口頭試問なので、その形式に慣れることが最重要といっても過言でもありません。
自己学習を進めつつ、ファームの選考を理解している人と一緒に練習を繰り返すことが必要になってきます。
世の中には多くの転職エージェントが存在しますが、一部のエージェントはケース対策に精通し、壁打ち役にも対応してくれます。
コンサルへの転職を目指すなら、そういうタイプのエージェントを見つけると良いでしょう。